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時事ネタ

第19号 ガラリと変わる相続対策 2つの贈与を賢く選択  


<納税通信第3784号引用>

 来年から、贈与を使った相続対策の常識が大きく変わる。最新の2023年度税制改正では、これまで相続対策の定番であった年間110万円の贈与税の非課税枠について、持ち戻し期間の延長が盛り込まれた。この見直しによって「暦年課税」方式が使いづらくなる一方で、もう一つの「相続時精算課税」方式には大幅な拡充が行われている。とはいっても、相続時精算課税には独特の”縛り”もあり、従来のように暦年課税を使ったほうが得をするケ—スも存在する。これからの相続対策は、どちらかしか使えない2種類の贈与制度を賢く ”選択”することが重要となっていきそうだ。


贈与の持ち戻し7年の大幅延長

 今年3月末に成立した2023年度税制改正関連法では、年間110万円までの生前贈与を非課税とする「暦年課税」方式の厳袼化が盛り込まれた。同方式で は、死期をさとってからの駆け込み贈与を肪ぐため、相続発生までの一定期間内の贈与を相続財産に持ち戻す「持ち戻し」 ルールがある。23年度改正ではこれを現行の3年から7年に延長した。事前の予想では15年への延長もあり得たなかでは比較的穏当な結論に落ち着いたが、それでも現行制度に比べれば2倍以上の長さだ。

 持ち戻しの期間が倍増したことで、せっかく贈与した財産の大半を相続財産に持ち戻される可能性もゼロではない。今回の見直しに対応するには、持ち戻しの対象期間を考慮して 一層早く生前贈与に手を付けるしかないが、それでも最大で1人当たり110万円が7年分、トータル770万円の贈与の節税効果が帳消しになりかねない。

 さらに110万円の非課税枠を当てにしていない人にも、今回の見直しの影響は及ぶ。土地の評価額を最大8割減らせる「小規模宅地の特例」は相続税対策の定番ともいえる手法だが、同特例の対象には、持ち戻しによって相続財産に繰り入れられた土地は含まれない。つまり相続税対策として土地を生前贈与したにもかかわらず、7年以內に贈与側が亡くなってしまうと、 特例が使えないという事態も起こりうるわけだ。相続対策に詳しいある税理士は、 「時間をかけた相続対策が無駄に終わるリスクを考えれば、今後は暦年課税を確度の高い資産移転の手法としては組み込めなくなるだ ろう」とこぽす。

 一方で、予想以上の拡充が図られたのが、もう、一つの贈与方式である「相続時精算課税」だ。同方式は、生前に贈与した分が2500万円までは贈与税がかからないが、相続が発生した時にはすべてを相続財産に持ち戻して相続税が課されるというものだ。これまでは暦年課税とは異なり完全に非課税とはならず、一度選択するとそれ以降は110万円以下少額の贈与についてもすベて申告を求められることから、使いづらい不人気制度であり、利用する人は暦年課税の10分の1にも満たなかった。

 それが24年1月以降の贈与からは、特別控除枠2500万円に加えて、別に年間110万円の新たな控除枠が設けられることとなった。ここまでなら暦年課税と「110万円までは申告不要」というラインを合わせただけだが、さらに驚くべきは、この相続時精算課税の110万円の非課税枠については、相続発生時の持ち戻しの対象にならない。つまり暦年課税については相続前7年分を持ち戻す一方で、相続時精算課税は死亡直前のものであっても”やり得”ということだ。これまでの暦年課税にすらなかった優遇であり、今後は相続時精算課税が生前贈与のスタンダードになるとの声は多ぃ。


不人気制度だった相続時精算課税

 2種類ある贈与税の課税方式のうち、相続時精算課税は相続が発生した時にはすべてを相続財産に持ち戻し、贈与当時の時価で相続税がかかる仕組みだ。よく言われる「相続時精算課税は2500万円まで非課税」 というのは誤りで、将来の相続発生時までの課税を繰り延べられるに過ぎない。

 それでは、どこに相続時精算課税を利用するメリットがあったかというと、税金の支払いを先送りできることに加え、そもそも相続税がかからない人にとっては遺産の前渡しに使えること、賃貸物件を子どもや孫に贈与すると賃貸収入を子供や孫に移すことができることなどが挙げられる。さらに土地や株式などの価格が低いときに贈与しておき、いざ相続時に価値が上昇していれば大きな節税効果を得られるという点も魅力だった。

 もっとも土地や株式の価格は下落する可能性もあるため、確実な節税策とは言い難く、また一度で も相続時精算課税制度を利用して贈与すると、暦年贈与の110万円枠は使えなくなることから、暦年贈与を選択することが圧倒的に多かった。実際に2021年の贈与税の申告実績をみても、暦年贈与を申告した人が48万8千人だったのに対して相続時精算課税を申告した人は4万4千人と10分の1に満たない。 110万円以下の贈与を行って申告自体をしていない人の存在も考慮すると、両者の人気には天と地ほどの差があったといってもいいだろう。

 ところが最新の税制改正で、この贈与税の2つの仕組みに、それぞれ大きな見直しが盛り込まれた。暦年課税の持ち戻し期間については、現行制度では3年と なっているところを、亡くなった日から7年前までに延ばす。負担軽減策として、現行制度から延長した4年分については、総額100万円までは相続財産に加算しない非課税の贈与財産とするルールも設ける。この見直しは今年すぐ行われるのではなく、27年1月から段階的に延長していき、最終的には31年1月に持ち戻し期間7年となる。まだ数年間の猶予があるということは覚えておきたい。


持ち戻し期間は 今後も延びる?

 そもそもの贈与税の改正議論のきっかけは、20年に政府税制調査会がまとめた見解だった。政府税調は贈与税のあり方について、「(暦年贈与は)資産移転の時期の選択に中立的でない」、「格差の固定化を防止しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築する方向で、検討を進める必要がある」と見直しを求めた。最終的に同年12月にまとめられた21年度税制改正大綱には盛り込まれなかったものの、大綱では「資産移転の時期に中立的な税制の構築に向けて本格的な検討を進める」と明記した。110万円贈与が廃止されるのではないかとささやかれ始めたのも、この頃からだ。

 だが22年に入って、税制改正の方向性をリードする立場である政府税制調査会、与党税制調査会の両会長から、110万円贈与の廃止は考えていないという内容の発言がでてくる。宮沢洋一自民党税調会長が「暦年課税の110万円を縮小する必要はないと思う。なくすのは政治的にも難しい」と発言すると、政府税調の中里実会長も「暦年課税を完全に廃止することは困難で、毎年の贈与について一定の基礎控除を設けなければ制度がもたない」と見直しを完全否定した。

 一説によれば、110万円贈与の廃止を強く求めていたのは、財務省ともいわれる。富裕層が無税でまとまった財産を承継できる現状を税逃れとみる財務省が、 両税調を動かして制度を撤廃しようとしたが、「現実的に不可能」と突っぱねられたのだという。ただ両会長とも「相続税と贈与税の 一体化」という方向性自体には理解は示し、そこで贈与時期による税負担の格差を是正する現実的な代案として浮上したのが、「持ち戻し」の延長だったわけだ。持ち戻しの期間を延長するとして、その長さでも意見は分かれた。日本ではこれまで持ち戻しの期間を3年と設定してきたが、実はこれは海外に此べても短い。例えばイギリスでは7年、ドイツや韓国は10年、フランスは15年、米国に至っては何十年前に行った贈与であっても相続時には相続財産に繰り入れることになっている。持ち戻しの延長幅について、与党内で見方が食い違うなど議論は難航したが、最終的には7年で決着した格好だ。

 ただ改正の主旨である 「資産移転の時期に中立的な税制」という観点からみれば7年という期間は中途半端だ。ある国税OB税理士は、「あくまで今回の見直しはファーストタッチで、現場が7年の書類保存に慣れてきたら10年、15年と延びていくだろう」と予測しており、最終的には米国のよぅな生涯持ち戻しとなる可能性もゼロではない。


新たな”定番” 賢い活用法

 暦年課税が単純にこれまでより使いづらくなり、相続時精算課税が大幅に拡充されたとなれば、今後の相続対策の定番は相続時精算課税ということも十分にあり得る話だ。だが実際に制度を使うに当たっては、両者の相違点をしっかりと把握しておきたい。特に相続時精算課税の独自の”縛り”を理解せずに同制度を適用することは、後で大きな悔いを生みかねない。相続時精算課税の”縛り”として一番大きいのは、やはり一度適用すると二度と暦年課税には戻れないという点だ。この点については、「まず拡充というアメを与えて納税者を相続時精算課税に誘導しておいて、例えば10年後くらいに持ち戻しを導入するなどのムチを振るってくる可能性はゼロではない」 (都内の会計事務所の所長税理士)とのうがった見方もある。そこまでは現時点では考え過ぎにしても、今後どのような制度改正があったとしても一旦選んだ相続時精算課税は取り消すことができないという点は肝に銘じておいたほうがい いだろう。

 様々なメリットとデメリットを鑑みたときに、どちらが得かが判断がつかないというのであれば、とりあえずの一手として暦年課税を使っておくというのは大いにあり得るやり方だ。その後、税理士などの専門家から相続時精算課税にゴーサインが出た時点で適用しても遅くはない。相続対策では数千万円から数億円の大きな額が動くだけに、所得税や法人税以上に「後悔先に立たず」となる可能性がある。

 実際に相続時精算課税を適用したほうがいい場合とは、例えば値上がりが見込める賃貸不動産を贈与するケースなどが考えられる。相続時精算課税では、生前に贈与した分が2500万円までは贈与税がかからないが、相続が発生した時にはすべてを相続財産に持ち戻して相続税が課される。 ここで大事なのが、相続税の算定に当たっては不動産の評価額は相続時ではなく贈与時のものを採用するという点だ。つまり贈与時より相続時のほうが評価額が上昇していれば、その分だけ節税になる。さらに賃貸不動産であれば、相続で受け継ぐケースに比べて、贈与時から相続までの間の賃料収入がそのまま財産の前渡しとなる。当然、その分は賃貸物件を受け継いだ側の所得となるため、相続税が課されない。

 他にも、自社株の承継でも相続時精算課税がトクになるケー スが想定される。将来的な値上がりが見込める自社株を渡したい場合に、現行ルールでは110万円の非課税枠を使いたいがために暦年課税を選んでいたという経営者もいるだろう。こうしたケースでは、相続の発生直前まで年間110円の非課税枠が使え、値上がり分が相続税に反映されない相続時精算課税を積極的に選ぶべきだといえる。


負担付贈与や小規模宅地はNG

 一方で、相続時精算課税を使うのは控えたほうがいいケースについても検討しておきたい。例えばマイホームなど、資産価値が目減りしていく可能性が高いものを贈与してしまうと、相続のタィミングで実勢価値にそぐわぬ高い税負担を課されてしまう。さらに相続税対策の定番である、土地の評価額を最大8割減らせる「小規模宅地の特例」は、相続で受け継がれた土地のみを対象とするものだ。つまり相続時精算課税で受け継がれた土地は、最終的には相続税で精算する仕組みであるにもかかわらず、小規模宅地の特例を使えない。同特例を使えるかどうかで相続税負担は大幅に左右されるため、この検討を抜きにして相続時精算課税を使うのはあり得ないだろう。

 もう一つ気を付けたいのが、贈与が「負担付贈与」になってしまうパタ—ンだ。ローン返済などの債務を引き受けることを条件に金銭や不動産などを贈与することを「負担付贈与」という。この負担付贈与を利用する上で、注意したいのが、贈与する財産が土地や建物であるときだ。例えばアパートを贈与すると、通常の贈与であれば土地は 「路線価」、建物は「固定資産税評価額」で評価する。これらの評価額は、売買価格(時価)よりも低い金額となるのが一般的だ。だがこれが負担付贈与だと、不動産は時価で評価するというルールになっている。つまり負担付贈与で不動産を渡すと通常の贈与と比べて税金面で極めて不利になる。

 負担付贈与については、たとえローン債務の残っていないアパートを贈与したケースでも、店子から敷金を預かっていると、この敷金が「大家として将来敷金相当額を返却する債務」を背負っているとして負担付贈与とみなされるリスクもある。収益物件を贈与する際には、店子に返還すべき敷金分の現金を同時に贈与したほうがいい。そのほか、相続時精算課税には贈与者と受贈者の双方に年齢要件が設けられているなど、暦年課税にないハードルがある。

 来年からは、暦年課税に比べて相続時精算課税が大いに有利になるのは確かだ。今後増税のリスクが否定できないとしても、利用を検討すべきケースが大きく増えるのは間違いない。どちらの方式を採用すべきか、税理士など専門家としっかり検討して、賢く選択したい。                     

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谷の私見
 相続時精算課税制度の特徴として、その名の通り贈与であげているけれど、相続の時に相続財産へ組み戻して計算します、というものです。支払った贈与税は相続税の計算の際に差し引いてもらえるので、損得というのは特にありません。
あるとすれば、相続時精算課税制度の特徴の1つである、贈与時の価格で固定される、という部分です。
 事例をあげると、例えば株式です。相続時精算課税制度を利用して贈与した時の株価が@1万円とします。その後、相続が発生した際に当初あげた株式についても相続財産に組み戻されますが、その価格が「贈与時の時価」となります。つまり、相続時にその株価が@2万円となっていたとしても@1万円で計算するので節税になる訳です。しかし、逆もしかりで、相続の際に@5千円に下がっていたとしても贈与時の@1万円で計算しなければならないので、この場合は損をしますね。こればかりは読めない部分もありますが、将来、価格が上昇しそうな自社株などはある程度読めるので、そのような財産は精算課税制度を利用して節税してもよいかもしれません。

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