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第15号 中小企業経営者に大打撃!現実味帯びる退職金増税


<2023年6月19日付 納税通信第3771号1、2面引用>

 

 中小企業経営者の節税プランを支えてきた退職金税制を巡り、岸田首相は控除額の引き下げを念頭に見直す方針を打ち出した。勤続年数に応じて控除額が増える現行制度に手を加えることで「働き手の離転職を促す」という。だが、控除額の引き下げとなれば事実上の増税にほかならない。

 さらに、退職金による節税を前提とした従来のタックスプランニングは抜本的な見直しを迫られるおそれもある。退職金税制の現状と今後の見通しを確認し、自身の節税プランに及ぶ影響を把握しておきたい。

 役員・従業員が受け取れる退職金には①退職所得控除、②2分の1課税、③分離課税―と3段階の税制優遇がある。「①退職所得控除」は1つの会社に長く勤めるほど節税効果が大きくなるという長期雇用を前提とした仕組みで、勤続1年ごとに40万円が控除額として積み上がり、21年目以降は70万円に拡大する。また「②2分の1課税」では、受け取った退職金から①の退職所得控除を差し引いた額からさらに半分を非課税にできる。そのうえ「③分離課税」が適用されるため、退職した年度の役員報酬や給与といったほかの所得と合算されないようになっており、役員報酬や給与といった—般的な収入のように税率が跳ね上がるリスクがない。

 退職金の優遇税制の効果は絶大だ。仮に年間収入2千万円・役員在職期間15年の会社役員が今後10年間にわたって役員報酬を年間1千万円(計1億円)増額すると、新たに発生する所得税・住民税は累計5千万円ほどになるが、その1億円を退職金として一括で受け取れば1955万円まで減らせる。退職金として受け取るだけで実に3045万円もの節税になるというわけだ(復興特別税などは考慮せず)。中小企業経営者のタックスプランニングは退職金の優遇税制ありきといわれるゆえんだ。

 だが今後、退職金の優遇税制の縮小が進む可能性がある。4月12日に開かれた「新しい資本主義実現会議(実現会議)」の中で、岸田文雄首相が退職所得控除にメスを入れると明言したためだ。勤続年数に応じて控除額が増える現行制度が「年功序列や終身雇用を前提とした日本型雇用慣行の1つとなっており労働移動の円滑化を阻害している」として、控除額の引き下げを念頭に見直していくという。岸田首相は新たな退職金税制を「早ければ2024年度税制改正に盛り込みたい」としており、急速に議論を進める考えだ。

 実現会議のなかでは、退職所得控除を巡って大きく分けて2つの見直し案が提示されている。1つ目の案は勤続年数が20年を超えると控除額が増える仕組みを改めるというものだ。連合の芳野友子会長は「勤続1年間当たりの控除額を一律60万円とすべき」と提言している。また東京大学大学院の柳川範之教授は40万円程度への引き下げも視野に入れており、「経過措置を考慮しつつ早急に見直すべき」との考えだ。

 2つ目の案は控除の仕組みのみならず退職金制度そのものを見直すというもの。日本総合研究所の翁百合理事長は「退職給付という賃金の後払いによって勤続年数の長期化を促す傾向がある」ことから、「課税制度の見直しとともに退職金制度そのものの抜本的見直しが必要」と提言した。実際、政府の成長戦略のモデルケースとされている先進国では、「退職金制度を設けていないことが一般的」だという。

 退職所得控除が引き下げあるいは撤廃となれば高所得者のタックスプランニングへの影響は甚大だ。勤続年数を30年と仮定すると、現行制度では退職金1500万円まで非課税で受け取れる。これが1年あたりの控除額が40万円に引き下げられれば非課税となる上限額は1200万円まで狭められる。控除制度が撤廃となれば、当然ながら受け取った退職金の全額が課税対象だ。

 高所得者のなかでも、とりわけ経営者のタックスプランニングには重大なダメージとなるのはほぼ確実だ。給与が基本的に固定となっている従業員と異なりある程度自由に自分の報酬を設定できる経営者にとって、冒頭の事例のように通常の役員報酬を減額して将来的に受け取れる退職金を増やす節税策はいわば"王道"だ。また毎月積み立てた運用資金を事実上の退職金として受け取れる「個人確定拠出年金(iDeCo)」や「企業型確定拠出年金(企業型DC)」についても一時金は退職所得控除の対象となっており、万が一控除額が縮小・撒廃となれば影響は避けられない。

 もっとも実現会議の改正案では、必ずしも退職所得控除が引き下げられるとは限らないわけだが、近年の税制改正を見てみると一貫して課税強化の方向に進んできたのが実情だ。2012年の改正では、在職期間が5年以下の役員について、退職金の課税対象額を2分の1とする優遇措置から除外した。このときは、天下りした公務員などが短期間で再就職を繰り返して何度も退職金を受け取る「渡り」を封じるためだと説明された。

 また21年の改正では役員以外の従業員についても、在職期間が5年以下であれば退職所得の300万円を超えた部分について2分の1課税から除外するというさらなる課税強化が実施された。このときは、「長期勤務に対する報奨や退職後の生活資金の確保といった『退職金制度の趣旨』にそぐわない税逃れ」が一部の外資系企業などでみられたためと説明された。具体例として、海外企業から日本の子会社に一定期間出向するというケ-スで、月々の固定給は低額に抑えたうえで、差額は自国に戻るタイミングで税制上優遇される退職金として支払うという方法があった。

 今回の岸田首相の発表を受け、すでに退職金税制の課税強化を懸念する声が上がっている。都内の税理士は「これまでも何かと理由をつけて退職金の優遇税制は縮小されてきた。今回も『労働市場改革』の大義名分のもと増税する狙いがあるのではないか」と負担増を見通す。また横浜市の建設会社社長も、「年間40万円の控除額が勤続20年を境に70万円に増えるのが問題だというのであれば、全期間通じて年間70万円にすればいいだけ。政府のなかで控除額の引き上げの議論が出ていないのであれば、課税強化に舵を切ったと考えるのが自然だろう」と見ている。

 節税効果の極めて大きい退職金は、中小企業経営者をはじめ富裕層のタックスプランニングの王道として活用されてきた。だが、政府の中では課税強化を念頭に抜本的な見直しに向けた議論が始まっている。退職金税制の最新情報を逐一確認し、自身の節税プランに及ぶ影響を把握しておきたい。                      

掲載記事

谷の私見
 ついに退職金も増税の方向性がかなり現実味を帯びてきましたね。何でもかんでも増税です、困りましたね。国民の皆さんもそろそろ目を覚まして、これから起こりうる日本の未来を真剣に考えるべきかと思いました。
 退職金について重要なポイントは、①退職所得控除、②2分の1課税、③分離課税、です。来年改正があると噂されているのは①の退職所得控除です。実は、この部分の改正で影響があるのは一般のサラリーマン等の方です。高額退職金を手に入れる人たちにとっては実は大して痛い改正ではないのです。高額退職金の方々が困るのは②の2分の1課税の部分です。ですので①で影響が出るのは、退職金が1000万円~3000万円くらいの中小企業の従業員又は役員の方です。
 そもそも、最近の会社では退職金制度自体が無い会社もあるので、そのような会社にお勤めの方には関係のない話かもしれませんね。

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