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時事ネタ

第10号 長き戦いに終止符 ついにタワマン節税終焉へ


<納税通信 第3762号 1、2面引用>

 長きにわたって富裕層の相続税対策として活用されてきた「タワマン節税」がついにに終わりを迎える。国税庁は 1月末に有識者会議を開き、マンションの財産評価ルール見直しに向けた議論をスタートさせた。数億円の税負担軽減効果も見込めた同手法を失うことで、富裕層は今後、どのような相続税対策を講じてゆけばよいのか。

 タワマン節税のこれまでとこれからを見てみる。


「眺望」が評価額に反映されず

 相続税評価額と実勢価格のかい離を利用した「タワマン節税」の規制に向けて、国税庁は1月30日、第1回となる有識者会議(座長・前川俊一明海大名誉教授)を開催して議論をスタートさせた。有識者会議は、2023年度税制改正大綱にマンションの相続税評価ルールの見直しが盛り込まれたことを受けて設置されたも ので、価格のかい離の実態把握と要因分析を進め、相続税評価について定めた通達の改正を目指すという。

 そもそもタワマン節税とはどのような手法か。基本的な考え方として、同じ価額の資産であっても、現金での保有に比べて、土地で所有しているほうが相続財産としての評価額は低く抑えられる。不動産には財産評価する上でさまざまな特例が用意されているためで、多くの税理士が「相続税対策は土地対策」とロをそろえるゆえんだ。現金を不動産に換えて資産額を圧縮することは、相続税対策の基本と言える。

 そして不動産がマンションであった場合は、さらに高い節税効果を見込める。マンションは階数が変わったとしても住戸面積が同じなら固定資産としての評価額は変わらない。その一方で、実売価格は眺望のよい上階になればなるほど高くなるため、高層階ほど実勢価格と評価額の開きが大きくなる傾向があるためだ。

 例えば同じマンションのなかでも、1階住戸の実勢価格が5千万円、同じ広さの30階の住戸が1億円で、相続税評価額はいずれも2千万円とすると、実勢価格に対する評価額の割合は1階住戸なら40%、30階住戸なら20%という差が生まれる。数十階にもなるタワーマンションであれば、低層階と高層階の価格の開きが1億円以上になることも珍しくないため、節税効果もその分大きくなるというわけだ。これを利用し、相続を見込んでタワーマンションの高層階を購入しておき、相続税を納めた直後に高額で売却するという節税手法が「夕ワマン節税」だ。


「東京五輪」特需で 流行が加速

 タワマン節税という手法は従来もあったが、その流行に拍車をかけたのが2010年代に入ってからのマンション価裕の高騰だ。国土交通省が公表している不動産価格指数は、10年時点での不動産価格を100として、住宅全般では15年も105ほどであるのに対し、マンションの区分所有をみると15年には120を突破した。相続税対策としての需要の高まりに加えて東京五輪を見据えての地価上昇、外国人による不動産投資熱などがあいまった結果、15年の全国のマンションの平均価格は前年比7.2%増の4618万円となり、調査を開始した1973年以来、最高額を記録した(不動産経済研究所調べ)。なおマンション価格の高騰はその後さらに進行し、22年10月時点では住宅総合の指数が133.8であるのに対しマンションは186.4となっている。

 マンションの価格高騰に伴い、タワマン節税の効果も顕著なものとなる。有識者会議では同手法が用いられた例がいくつか示されており、それによれば東京都の43階建てのタワマンを使ったケースでは、23階と中層階であるにもかかわらず実勢価格と相続税評価額のかい離幅は3倍を超えた。

 こうした状況に国税当局も警戒を強め、15年の秋頃には全国の国税局に対し、行き過ぎたタワマン節税が行われていないかを厳重にチェックするよう指示を飛ばしている。同時期に国税庁が行った調査によれば、300件を超えるタワーマンション物件の平均的な財産評価額は実勢価格の3割程度に抑えられていることから、固定資産税評価額と実際の価格が著しく離れているケースや相続とマンション売却の時期が不自然に近いケースに対しては相続税を追徴課税していく方針を示した。

 

 後出しOKの「伝家の宝刀」

 この際、タワマン節税を規制するために国税庁が使ったのが、相続税の財産評価のルールを定めた財産評価基本通達の総則の第6項、いわゆる「総則6項」だ。同項では、通達によって評価することが「著しく不適当」と認定できるケースに限り、「国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定している。評価ルール全体における例外規定とも呼べる内容で、この項目を適用すれば最終的には国税側の言い値が適用されることになる。「総則6項は伝家の宝刀」と言われるゆえんだ。

 タワマン節税はあくまで合法的な手段であるため、当局としては総則6項を使って否認するしかなかった。だがこのやり方に対しては、「納税者の予見可能性を妨げるやり方だ」として批判も少なくなかったようだ。「伝家の宝刀」と呼ばれた総則6項を当局がどれだけ振るっていたかはこれまでベールに包まれでいたが、先日の有識者会議では、この点も明らかにされている。それによれば、夕ワマン節税が総則6項で否認されたのは、2012年~23年の10年間で9回だった。これを多い と取るか少ないと取るかは難しいが、少なくとも当局にとっても、税法上で認められた手法を後出し否認する総則6項は、そう日常使いできるものではなかったとは言えそうだ。

 タワマンにおける実勢価格と税額の差を是正しようという動きが、これまでなかったわけではない。17年度税制改正では、高さ60メートルを超えるタワマンにつき、固定資産税頟を階数に応じて増減するルールが設けられた。このルールは、建物全体の税額は据え置いて、1階上がるごとに税負担が0.26%上がるように按分していくもので、ちようど中間に当たる階では担税負担が変わらず、それより低層階では減税に、高層階では増税されることになる。仮に50階建てのマンションで部屋の面積が同じであれば、40階なら税額は1階より約10%、50階なら約13%高くなるわけだ。

 だがこれは、あくまで最終的な固定資産税の税額に調整を加えるものに過ぎず、固定資産税の評価額自体を変動させるものではなかった。そのため、固定資産税評価額を基に算定する相続税評価額にも変化はなかった。当局が規制したかった"本丸" であるタワマン節税には、何ら影響しなかったということだ。


 最高裁判決を機に抜本的見直しへ

 このようにタワマンの相続税評価額の抜本的見直しを求める声がありつつも、動きがなかったなかで、大きな潮目の変化となったのが昨年4月に下された最高裁判決だ。この裁判では、タワマン節税に対して総則6項で否認した当局の処分が適正であったかどうかが争われた。

 90歳だった被相続人は信託銀行から約10億円を借り入れ、タワマンの2室を計14億円ほどで購入、融資時に銀行が作成した内部稟議書では「相続対策のため」と記載されていた。被相続人の死亡後、高層階の実勢価格が反映されない相続税路線価では2室の評価額は3億円ぼどとなり、さらに借り入れた10億円を債務として控除、相続財産として価値は0円とした。相続人がこの路線価に従い申告したところ、当局が「路線価による評価は適当ではない」と否認し、約3億円の追徴課税処分を下した事例だ。

 判決では、課税処分は適法であったとして当局が勝ったのだが、最高裁は注文を付けた。判決では「通達評価額(路線価)と鑑定評価額(実勢価搭)との間に大きなかい離があるということができるものの、このことをもって(特別の) 事情があるということはできない」との基準示したのだ。総則6項を適用するためには税逃れの意図があったという証拠が必要であり、税額のかい離のみをもって総則6項で否認することは認められないということだ。

 当局にとっては裁判に勝ったとはいえ安易に総則6項を使えず、納税者にとっては否認リスクが高まったとして買い控えの動きも生まれたことから、抜本的な評価ルールの見直しの必要性が増大。そして年末の税制改正大綱での「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」との記載を受け、ついに1月末に開催されたのが第1回有識者会議ということになる。


 流行から10年ついに終焉へ…

 有識者会議では、出席した委員から「価格かい離はタワマンだけの問題ではなく、マンション全体の評価ルールを見直すべき」、「評価方法を見直した結果、逆に評価額が時価を超えないようにする配慮が必要」などの声があった。一方で、「住宅購入者がマンションか一戸建てかを選ぶ際のバイアスとならないよう、急激な評価増は避けるベき」などの慎重な意見も見られた。全体の方向性として、一部の税逃れの防止のみが目的ではなく、評価額と時価のかい離の是正を目指すことを確認した。有識者会議は今後も複数回開催され、かい離の実態把握と要因分析を進め、通達改正につなげていく見通しだ。実際に通達改正がいつになるかは現時点では見えないが、夕ワマン節税が近い将来に使えなくなることは確実と言っていいだろう。

 こうして振り返ると、夕ワマン節税が流行してから抜本的な評価ルールの見直しに至るまで約10年がかかった計算だ。当初から夕ワマン節税を問題視していたのであれば、総則6項による否認などではなく最初からこうすベきだったはずで、手を打つのが遅れた面は否めない。ただ遅いとはいえ、これまで後出し否認のような予見できないかたちで追徴課税を食らっていたところが、明確にルール化されるというのは歓迎すべき話だろう。だが有用な節税手法が一つ失われるというのも事実であり、納税者にとっては痛し痒しといったところだ。

 もっとも、タワマンの高層階における評価額のギャップがなくなるだけで、相続財産としての不動産の価値がなくなるわけではない。そもそも不動産が相続税対策に使えるといわれるゆえんは、建物の評価額がおおむね建築価格の6割くらいになるからだ。さらにそこに小規模宅地の特例や借入金の債務控除なども組み合わさり、現金で持つことに比べて大きな節税効果が生まれる。タワマン節税がなくなったとて、これらのメリット自体がなくなるわけではないので、今後も不動産の活用が相続税対策のメインである点に変わりはないだろう。


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谷の私見
 「2023.1.2納税通信第3754号「2023年度税制改正大綱」」の記事でも取り上げましたが、相続税対策として利用されてきたタワーマンションの評価についてついにメスが入るようです。現時点(2023.3月)ではまだ明確なルールは決まっていませんが、有識者を集めて評価方法等について議論をスタートしたようです。                                 一方気になるのが、タワーマンションがダメならその他の不動産(賃貸不動産アパート・低層階マンションなど)も同じようにメスが入るのか、と疑問に思われている方も多いと思います。今のところ議論されているのはタワーマンション(そもそも何階以上がタワーマンションかという定義も難しいですが・・・。)だけのようですので、不動産賃貸業をされているオーナーの方はあまり心配しなくてもよいと思います。

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